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Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

若手陶芸作家による「うつわ」の現在

自宅で、無理せず安く作れて、しかもおいしい、そんなお料理のノウハウが喧伝されている昨今です。女性には彼氏に作ってあげると喜ばれるようなものが、男性には家飲みを楽しくするようなお手軽なおつまみが人気ですね。折りからの景気減退にともなう消費縮小傾向を反映したものだと訳知り顔でいえばいえてしまうことではありますが、そんな小さくまとめてしまわずに、これを機会により充実した生活を送っていけたらなあと、僕も思っているところです。

ところで、お料理といえば欠かせないもの。それは「うつわ」です。どんなにおいしいものを作ったって、極端な話、紙皿に盛ったら台無しですよね。そんなのただのエサです。かの北大路魯山人が「うつわは料理の着物」といったのは有名ですが、そこまでいかずとも、せっかく作った料理を、よりおいしく味わいたいという気持ちは誰でも持っているでしょう。

春夏秋冬 料理王国 (ちくま文庫)

春夏秋冬 料理王国 (ちくま文庫)

うつわが、とりわけ若手の作家さんの作るものが熱いです。おそらく、事情を知らない多くのひとにとって、驚くほど新鮮な活況を呈しているのが「いま」です。陶芸家といって思い浮かぶのはどういうひとでしょうか?土のハネた作務衣を着て、頭にタオルを巻いた、なにやら気難しそうな男性というイメージが強いのではないかと思います。もちろん、いまでもそういうひとは多いでしょうが、旧弊です。たとえばスズキアルトのCMに出演した岡崎裕子さんなどは、そのルックスの良さも含め、知名度においては若手陶芸家の代表格でしょう。

「現代の若手陶芸家」とひとくちにまとめてしまいましたが、私見では、以下のようにその特徴をまとめることができます。なお、たとえばここで技巧的とされないからといって技巧がないということでは、もちろん、まったくありません。その達成の方向性として、どの要素が強く現れているかによって分類したものです。また、以下に挙げた作家さんの他にも、優れた作品を制作している方々はたくさん(本当にたくさん)いらっしゃいます。重要なことなので、よくよく認識していただきたいと思います。

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技巧的で、かつアート寄りな作家さんとして、ここでは青木良太さん @新見麻紗子さん @若杉聖子さん @の各氏を取り上げました。特に前二者に見られる特徴として、以下を挙げることができます。

  • ルーシー・リーを始めとする、西洋のセラミクスを踏まえたモダンな造形感覚
  • 釉薬への飽くなき追求、多彩さ

青木良太さんなどは、海外も含めて年に何度も個展を行う人気者ですし、そのルックスや言動のかっこよさもあいまって、現代陶芸作家をリードする存在です。1年半ほど前に「情熱大陸」にも取り上げられました。

ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家

ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家

アートとして申し分のない美的達成を得ていつつも、その存在感は素朴で、ある意味とてもバランスのいいうつわを作る作家さんたちが、安藤雅信さん横山拓也さん @村上躍さんの各氏です。彼らの作品は、基本的に単色、シンプルでありながら、そのマチエール、テクスチャの繊細さがアーティスティック。それでいて素朴な風合いを損わないセンスの良さが特徴です。陶芸コレクターとしても知られる村上隆さんがある雑誌で語った印象的な言葉があります。「現代アートを数千円でコレクションできると思えば、うつわは安い」と。そんな言葉を最も実感できるのが、このカテゴリに属する作家さんたちだと思います。

技巧的とひとくちでいっても、その内実は様々です。たとえばその技巧を古典の「写し」に傾注したのが村田森さん、さらに独自のセンスでひねりを加える手捌きが見事な宮岡麻衣子さん、色絵の繊細、かつ、華やかさが魅力の伊藤聡信さんらが、それぞれに技巧的でありながらも、より日常の使用に寄り添った作品を作っています。特に村田森さんなどは、料亭での人気も高い存在でありながら、お値段は手頃で、入手できさえすれば、我々庶民の普段使いにとって最高レベルに上品な、圧倒的な作風を実際に感じることができるでしょう。宮岡さんもますます人気の上昇に拍車がかかっており、なかなか作品を入手できない存在になってきています。

最後に、額賀章夫さん小野哲平さん長谷川奈津さんを、ここでは代表として挙げた「日常・素朴派」とでも呼ぶべき作家さんを紹介しておきましょう。彼/彼女らの作品は、その安心感のある、しかし本気で日常生活の需要に応えようとする誠意が、使えば使うほど伝わってくる、うつわは日常使ってなんぼ、という僕のような実用本位のうつわ好きにとっては、最も便利で、登場回数が多いうつわたちです。特に額賀章夫さんの作品のクオリティ、それでいて求めやすい価格を維持している姿勢は、心からの尊敬に値します。「うつわを買いたいのだけどどれを選んだらいいかわからない……」というひとは、まずはこのカテゴリに属する作家さんのものを買うと、間違いないでしょう。

さて、以上、簡単な見取り図を示してみましたが、いかがでしたでしょうか。この文章をきっかけに、少しでも「うつわ」に興味を持ってくださる方が増えたとしたら、それ以上の幸せはないと思います。

暮らしの器―お気に入りの作家の器に出会える50のショップと陶器市 (Gakken Mook)

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この器で食べたくて。 (『nid』別冊MOOK)

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器、この、名もなきもの

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